【男性育休のパイオニア】スウェーデンに学ぶ男性育休キャンペーン成功の鍵

男性の育休

スウェーデンに学ぶ男性育休成功の鍵

男性育休取得率90%を超える北欧の福祉大国スウェーデンはとても有名ですね。

ここに習って日本政府も少子化対策でもある男性育休取得率の向上(2025年までに30%)を目指しているところですが、未だに取得に対するハードルが高い現状です。

さてその今では理想の国スウェーデンですが、実は昔からこんなに男性が取得出来ている状況ではなかったことを知ってましたか?

スウェーデンで両親が育児休業が取得できるようになったのは1970年代で、当時男性の割合は0.5%にとどまっていました。

しかし1990年代にクオータ制を導入したことにより、取得率が劇的に上がり2001年には88.5%にまで向上しました。

つまり最初の20年近くは試行錯誤の連続であり、スウェーデンは実に40年近くかけて今の男性育休社会を作ってきたのでした。

調べてみると現在の日本の男性と似た点がスウェーデンにもあり、もっと言うと現在世界中の男性が同じような障害に阻まれていることが分かりました。

そしてスウェーデンはそれに立ち向かってきたのでした。

今回はスウェーデンがどう克服してきたかを見ることで、私たちが今後の日本の未来をどう変えていくか、その原動力になることを願っています。

参考文献

  • ロガー・クリント/リンシェーピン大学両者の長所?スウェーデンの育児休業キャンペーンにおける父親の権利と男女平等、1976-2006年
  • トビアス・アクセルソン/エーレブロー大学 スウェーデンにおける男性の育児休業。政策、態度、実践
  • リンダ・ハース、C・フィリップ・ホワン/インディアナポリス大学、イェーテボリ大学 ジェンダーと組織文化。スウェーデンにおける父親に対する企業の対応策の相関関係

男性の育児休業取得を阻む障害

一般的に男性の育児休業取得を阻むものとして挙げられるのは、以下のものが代表的です。

  1. 育児をする父親象が想像しずらい。
  2. 制度上の取得条件の厳しさ。
  3. 会社での(企業側、経営陣、同僚など)取りずらい雰囲気。
  4. 取得時の経済的補償額、もしくは補償期間が不十分。

これらの要因は国の制度によってばらつきがありますが、日本だけでなく世界中で聞かれる原因で共通しています。

つまり決して日本が保守的すぎるからではなく、全世界で男性が体験する現象といえます。

スウェーデンがしたこと

父親象のイメージを長年かけて刷新してきた。

スウェーデンには父親の意識や訴えるイメージが湧かず、イデオロギーの形成を一から創ってきた歴史がありました。

世界中、男性が稼ぎ手で女性は家事育児をするという固定イメージがあり、当時のスウェーデンでもそのような風潮がまだまだありました。

しかし女性の社会進出の議論はもっと早い時代からあり、1970年代に両親育児休業が整備されることを皮切りに、男性の家庭進出へのキャンペーンが活発に行われたのでした。

長年のキャンペーンで示された父親像ですが、その中で浮かんだ問いは、”新しい父親の表象は何を表しているのか “ということでした。

最初の1970年代から1980年代にかけては、テレビや映画などで、男性がおむつ替えや哺乳瓶での授乳、遊び場のブランコを押すなど、日常の育児活動に関わっている姿が描かれました。

また育休中の父親へのインタビューを通して、多くの男性が父親となった経験や、育休取得を決めたことに対する職場や同僚からの反応も積極的に語り、描かれました。

こうした取り組みは、男性は公的領域(生産)、女性は私的領域(再生産)という従来のジェンダー概念に疑問を投げかけるものでした。

男性のアイデンティティは市民権とともに再定義され、男性は単なる稼ぎ手ではなく、父親であることが求められたのです。

ただその一方でキャンペーンイメージに重量挙げ選手を起用するなど、男性的な人物や道具などを使うことで、男性に受け入れられる社会的な立場を作り出そうとしました。

ここには、男性が自分の優先順位を問い直し、育児能力を向上させるよう促しつつ、同時に男性としてのアイデンティティを失わないよう安心させる意図がありました。

男性と女性の領域と責任の間の伝統的な障壁に挑戦し、同時に積極的な父親であることは、男性としてのアイデンティティを脅かすものではないことをキャンペーンでは再度伝えたのです。

しかし当時の概念上、シングルペアレント、ゲイやレズビアンの家族などの他の家族形態は含まれていませんでした。

2002-2006の育児休業キャンペーンでは「それぞれ半分ずつ!」をテーマに謳われました

スウェーデンの家族政策や平等な地位政策に、ジェンダー関係を力関係とみなす視点が導入されたのは、1980年代後半から1990年代前半にさかのぼります。

そして男性育休の問題はジェンダー関係の新しい解釈に照らして再定義されました。

力関係としてのジェンダー関係の概念に基づき、政府は1995年に育児休業保険に父性枠を導入しました。

当時、家族・平等な地位政策を担当するベングト・ウェスト・エルベリは、「男女が育児と家事の責任を平等に分担しない限り、ジェンダーの非対称性は変えられない」と宣言し、ジェンダー平等を基礎にする方針を打ち出したのです。

つまりジェンダーに関わらず家事育児の責任は半分で平等であるという理念と変わっていったのでした。

子育てが共同責任であることを示すことは、重要な政治的シグナルであり、共働き・共稼ぎの家庭という根本的なビジョンの実現に向けた一歩となりました。

取得期間や条件、補償額などを柔軟に拡大化した。

期間延長や補償額増額も育休取得率の向上に大きく影響しました。

ジェンダー平等の観点から父親に当てられるクォータ制により父親の育児休業の比率が飛躍的に上がりました。

1995年のクォータ制導入では導入2週間前の46%から導入2週間後には82%が育児休業を利用があり爆発的な向上が確認されました。。

90代では1年であった休業期間も2002年には16カ月に延長、クォータ制の割当月(父親の月)も2カ月に延長、また2006年には育休期間17カ月、2012年には18カ月にまで延長、2016年にはクォータ制の割当月も3カ月に延長されました。

男性の家庭進出も伴い、充てられる補償がより現実的に相応しいものに変化していったと言えるでしょう。

さらに手厚い看護休業のシステムも

その他あまり知られてないのが、子供の看護休業です。

こちらも補償や期間が非常に柔軟に設定されてきた点も挙げられるでしょう。

スウェーデンでは子供一人につき子供(8カ月から12歳まで)の看護休業は年間120日間、所得の80%補償で、しかも1時間単位から受けられます。

これもかなり大きな違いだと思います。

日本では看護休業が認められてはいますが、金銭的補償はありません。

子供の急な発熱などで朝会社に電話をかけ、欠勤もしくは遅れて出勤する旨を恐る恐る伝えなくてはならない実態があります。

どうしようもない理由であることは明らかであるにも関わらず、保護者が罪悪感まで抱えなければならず、仕事と子育てを両立するための環境を制度上整えてあるとは言えません。

スウェーデンのような思い切った制度がない日本では、後ろめたさを感じながら無償の看護休業を利用したり、補償がないので代わりに有給をあてたりせざるを得ないのです。

日本の看護休業のシステムは親の心理的、経済的負担が大きく、放置されている状態と言えるでしょう。

因みにスウェーデンでは、重篤な子どもに関してはさらに18歳に達するまでが対象となり、通院の付き添いでも取得出来ます。

恐らくこの制度を作るにあたって、政治家は子育て経験者であることが望ましいと言えるのではないでしょうか。

組織における取得阻害対策もジェンダー平等から!

スウェーデンの成功には、ジェンダー平等のイデオロギー形成が非常に重要で、それが同時に阻害要因への対策にもなっていきました。

現在日本で父親が男性育休を取得しない理由の第一位が職場での(企業側、経営陣、同僚など)取りずらい雰囲気とあります。

これは非常に憂慮すべき問題であり、つまり本人の育休取得の申し出に対して、未だに否定的な態度や言動を示す行為が横行してる実態なのです。

これは日本特有のサービス残業と似たような現象ですが、違法行為であるという意識がないと言わざる得ません。

スウェーデンではこの障害を徹底したジェンダー平等のイデオロギーで見事に克服しました。

対策は政府などの大きな組織による積極的支援を

スウェーデンでは2006年に、両親休業取得に対する職場でのいかなる差別も禁止しました。

しかしもう一方で大切なのが、政府や大手企業などが父親に対しての積極的支援を施すことであり、その具体的な対策の鍵がジェンダー平等でした

積極的な支援とは

アメリカ、インディアナポリス大学の社会学者リンダ・ハース教授、スウェーデン、イェーテボリ大学の発達心理学や組織文化とジェンダー平等の研究をしているフィリップ・ファン教授らの共同論文から男性育休取得における積極的支援について見てみましょう。

男性育休取得において積極的支援とは、会社などの組織が男性育休取得の方針を作り、これに思想的・経済的価値を置くことを意味します。(Haas & Hwang 1995; Haas, Allard & Hwang 2002;Russell & Hwang 2004)

具体的な手段として、最も成功した方法のひとつが、女性の労働力を給与やキャリアの面で評価することです。

これが父親にやさしい組織文化を発展させ、思いやりの倫理を促進していくことにつながるとしてます。(Gender and Organizational Culture: Correlates of Companies’ Responsiveness to Fathers in SwedenLinda Haas and C. Philip Hwang 2007)

また、もし男性中心の職場においても、有給労働という公的領域と無給労働という家族的領域との間のギャップを埋める努力をすることで、より父親に優しく、思いやりのある文化を発展させることができる。としています。

全員が寛容な雰囲気づくりには一人一人の平等に対する意識が大切であることが分かります。

まとめ 成功への鍵はジェンダー平等

このようにスウェーデンではジェンダー平等を軸に、組織環境での意識改革のための積極的支援を行ったことで、男性育休が当たり前の社会として受け入れられました。

つまり、男女関係なく平等に扱い評価し、責任を持つこと、すなわちジェンダー平等を実行し隔たりをなくすことで、必然的に男性は女性のように育休取得率は高くなり同時に女性は男性と同じように社会的立場も保つことが出来る。ということではないでしょうか。

並行して実際の子育てに必要な金銭的支援やサービスを拡充させていくのが不可欠なこともクオータ制導入後の流れから分かります。

その大きな援助が、人々の「子供を育てたい」という気持ちからハードルを取っ払い、国の出生率の向上へと繋がることとなるでしょう。

ジェンダー平等の精神が如何に少子化対策に影響するかがスウェーデンの成功から分かりますが、そして、もちろんこれらは人権問題解決にとっても大切なアプローチであることも理解できるのではないでしょうか。

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